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何かいい曲ないかな?レパートリー拡充講座

定番レパートリー

フランシスコ・ターレガ作曲「ラグリマ(涙)」

作曲家フランシスコ・ターレガは1852年生まれ、1909年没のギタリストであり、 現在のクラシックギター奏法の歴史は彼が築いたものであると言えます。 彼は数多くの作曲作品を残しており、それは現在でもギターを弾くものにとって「聖典」 ともいえるものです。

さてこの「ラグリマ」ですが、小品にもかかわらずプロの間では難曲と言われています。 テンポもゆったりとしているし、楽譜を見るとそれほど音符の数も多くはありません。技術(メカニック) の面ではクラシックギターを1年ほど勉強すれば弾ける曲であるといえるでしょう。では、この曲の難しさは どこにあるのか?それは表現と「音色」です。

逆に言えば、この曲が要求しているものが分かれば、ギターの素晴らしさが分かる曲であるといえます。 私自身、この曲を弾くたびに「ギターって素晴らしいな!」と思います。そう思える数少ない曲のひとつです。

版について

一般的には前半=中間部=前半部の繰りかえし、の譜面が使用されることが多いですが(参考:現代ギター社 「ターレガ曲集」)、スペインのSONETO社 より出版されているターレガ全集の中には以下のような3度によるパートが付け加えられ、ロンド形式に なっているものがあります。

ラグリマ中間部

基本的にターレガの手書き譜をもとに出版されたSONETO版ですから、おそらくこの版で弾いても問題はありませんが、 この3度の部分があることによって、テーマが3回登場することになり、ややマンネリになり作品全体の緊張感が 失われる可能性があります。この理由によって、私はこの3度の部分は演奏しません。

また現代ギター社版、Alier版(現在シャントレル社より復刊されている)、SONETO版において低音の音価 に差異があります。SONETO版がこの中では一番明確に低音進行を記譜しています。また、ターレガの生地である ビラ=レアル市にあるターレガ博物館収蔵の手稿譜をもとに出版されたものもあります。その他各国で出版されたもの をいれると膨大な数になりますのでこの辺でやめておきます。

以下、一番入手しやすいと思われる現代ギター社「ターレガ曲集オリジナル篇T」版をもとに解説をしていきます。

技術面

この曲を練習する人が陥り易い間違いは中間部短調になってからの「ポルタメント」です。「アラストレ」では なく「ポルタメント」です!。しっかりとその違いを理解しておいてください。まずはこれら2種をはっきりと 区別しておくことが譜読みの段階から大切です。そしてこの「ポルタメント」ゆっくりかけるか、早めにかけるか は、各ギタリストによって相違があります。ターレガの直弟子同士によってもかなりの相違があります(彼ら が書いた教本によってこのことが分かります)。このことはいずれ別の機会で論じてみたいと思います。

次に右手の運指の問題が多いにあります。メロディーをm(中指)に担当させるか、a(薬指)に担当させるか、です。 この楽曲のイメージは「涙」ですので、その繊細さをだすのであれば、aでひくのが妥当であると私は考えます。 ですがこのaの「繊細な」というニュアンスは決して「薄っぺらい」どは同じ意味ではありませんので注意してください。 ターレガは右手の各指を均等に鍛えることを奨励していました。どの指でも音量・音質ほとんど同じに音を 出せるようになった後での「微妙な差異」を感じて右手の運指を決定することが必要です。しっかりと鍛え抜かれた aのタッチを習得した後に得られる「繊細さ」がこの曲のメロディーに必要とされる音色です。この意味でも この曲は難曲といえます。

またメロディーをアポヤンドで弾くと全てフォルテにしかならない傾向がアマチュアの方に多く見られます。 初心者の段階では許されますが、フレーズ(G#−A−B−F#)をひとまとまりに聴こえさせるためにはそれでは 駄目です。フレーズの始まりー盛り上がりー終わり、を意識ししっかりと音量変化をつけることが大切です。 それには「ピアニッシモで弾くアポヤンド」の練習がお勧めです。タイミングを意識して指を「落とす」ように アポヤンドをかけて全体ゆっくり練習してください。力任せのアポヤンドしかできないのでは、この曲は演奏 できません。

表現面

拍子は4分の3拍子です。このリズムをしっかりと体に馴染ませてください。1拍目から2拍目まで盛り上がり、 3拍目はたっぷりと緊張感を持って、それが次の小節の1拍目に解決される感じを曲の終わりまで原則としてキープする ことです。すべてメトロノーム的に弾かないことと、フレーズ(G#−A−B−F#)の最終音F#にアクセントをつけないこと が大切です。この音で高まってきた緊張が解きほぐされるのですから、そっと着地するように丁寧に弾いて下さい。

フレーズ(G#−A−B−F#)は2回繰り返されます。伴奏形もまったく同じですので、何か違う表現をしなければな りません。G#からB音への緊張度の度合いを2回目のフレーズで少し強調してみるのがお勧めです。

1段目2小節3拍と2段目1小節3拍の緊張度の度合いは、音はまったく同じですが、まったく違います。 前者は一度落ち着いて、また同じフレーズが繰り返させる前ですから、それほどの緊張度はありません。 後者はそれに反して、メロディーが一気にE音まで「ジャンプ」するところですから、その前の部分はかなりの エネルギーが溜め込まれていなければなりません。ジャンプする前の序奏をしっかり、あまりテンポダウンせずに 演奏してください。

2段目2小節からの下降する旋律から最後まで一息で演奏しましょう。一息で演奏するといっても、 2段目3小節2拍目からリタルダンドの指示があります。ずいぶん息の長いリタルダンドですが、ここは 「たっぷりと十分音を響かせて」くらいのニュアンスでとってはいかがでしょうか。このリタルダンドの 指示を忠実に守りすぎ、緊張感無くだらだらと間延びしていくだけの演奏をよく耳にしますので、この点を 注意してください。

3段目1小節2拍目裏のF#音には4分音符の音価を与えてください。技術的にはセーハをしっかりと維持する ことと低音の音量に注意することです。あまり強く弾きすぎるとメロディーが消失してしまいます。「メロディー に溶け込ませるように低音を置く」ようなニュアンスで。

短調の部分は全体として「ドラマティック」に。各フレーズの音価の構造を見ても、前半よりも変化に 富んでおり、何か感情の動きのようなものを表現している部分であると推測することができます。中盤部に 比べれば、前半はよりスタティックな部分であり、いわば「お行儀の正しい」部分とも言えるでしょう。

短調最初のフレーズの音は7つです。これを譜割りどおりに(4+3)というグループでとると、しっくり いかないと思います。(3+4)のグループでとると、しっくりときます。4のグループはE音で始まりE音で終わる という理由でまとまりか感じられ易いと思います。

4段目2小節の旋律はしっかりとシンコペートさせてください。メロディーをしっかりとつなげ、セーハのところに あるメロディーのF#音で解決しているように聴かせるようにするのが大切です。音をつないでいくため、左手 指をキープするのは、結構大変でしょうが、がんばってください。このシンコペーションをしっかりと出すことで より、ドラマティックなリズムの変化を表現することができます。

5段目3小節3拍目からの低音進行に注意。4小節目はEのオクターブ下降で完全に解決しているので、1拍目のE 音はあまり弱くはできません。その前の音のD#の音は緊張感を持った音で弾いて、その音が半音上のE音に一時 的に解決、それからオクターブ下のE音で完全に解決しますので、最初のE音にはまだエネルギーが集積されて います。ですから、この最初の方のE音は、D#音よりは音量は強くなく発声させますが、余力を残した音量で弾くの が相応しいです。

アドバイス

長調の部分も短調の部分もフレーズは「112の法則」で区切ると分かり易いかと、思います。 (2小節+2小節+4小節)です。 この「112の法則」について、よく分からない人はここをクリックしてください。

タイトルについては「Una Lagrima」と不定冠詞がついています。このことから、一粒の涙と解釈しても いいかもしれません。喜びの涙なのか、悲しみの涙なのかについても自由にイメージしていいと思います。 また、スペインはヨーロッパの国のなかでも「マリア信仰」が強いところで、国に災いが起こると、奉られている マリア像が涙を流したという話があるくらいです。よって「慈悲の涙」をイメージしてもよい、と思います。

音色に変化をつけて、単調にならないように演奏しましょう。ですが、決して過剰にならず。湧き出さんとする 感情を押さえつけるように丁寧な音色で演奏し、そこでいて、しっかりとダイナミクスとリズムの変化、アゴーギグ があれば良い演奏と言えるでしょう。
(2005.1.6)

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