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富川ギター教室

〜クラシックギターに関する読み物〜
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スペイン・ギター留学記

スペイン・ギター留学記

師の言葉

大学時代とてもお世話になった教授がいました。スペイン美術史の大家であられた神吉敬三氏です。
大学時代はこの神吉先生のスペイン美術に関する授業はほとんど全てとりました。とにかくアカデミック な授業でした。三年生の頃からなぜか「スライド運搬係り」に任命され、友人の田島君と2人で授業前に 研究室に行き道具を講義室まで運び、終わったあと返しにいく作業をしていました。
このとき美術展の招待券などを「バイト代」としてくれました。今は無き東武美術館などの美術展の チケットが多かったと思います。そうこうしているうちにいろいろと話をする機会も多くなり、将来の話を することもありました。卒論の主査も神吉先生にお願いをしました。卒論のタイトルは「ホアキン・ ロドリーゴとネオ・カスティシスモ」という文化史、哲学史的な内容でしたが、その着眼点は多いに評価 していただきました。
4年生になり、卒論の最後の指導の時であったと思います。「就職はしないで、とりあえずスペインに ギター留学してみたい」と私は卒業後の進路を神吉先生に述べました。そのときの神吉先生の言葉が今でも 記憶に残っています。
「世紀の変わり目に30才前後の年齢の人たち、つまり君みたいなのが次の世紀の文化を築いていくこと になるんだよ。好きなことをやったらいい。僕はスペイン美術を紹介するだけで終わってしまったからな」
卒論の指導を依頼してから「君はギターでやっていくんだろう?」とたまーに言いながらも「困ったら就職の 世話はしてあげるから」とも言ってくれていました。ですが、結局はこの言葉で留学は「後押し」されて しまいました。今でもこの言葉は耳に残っています。
卒業式後の謝恩会は「体調不良」ということで神吉先生は欠席。手紙でのみ卒業生への言葉が読まれました。 これがまったく同じ内容であったのです!この時も胸に沁みました。
その後東京の下宿を引き払い実家に帰っている時に朝日新聞で神吉先生急逝の報をしりました。癌だった、 ということで驚きました。最後まで授業をし、授業後「富川、火をもってないか?」と煙草を一緒にふかして いたのに・・・。授業中咳をしながら「老人性肺炎、というのにかかってしまいまして・・・」とジョークを言って いたのは嘘だったのでしょうか?
神吉先生が亡くなり、上の言葉が私に重要な意味を持つことになります。あまり話したことがありませんが、 本格的にスペインで勉強して来よう、学べるものは全て学ぼう、と思えたのは「神吉先生の言葉」があった からだと思います。
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